毎朝、豆を挽いてコーヒーを淹れます。
福岡には美味しいコーヒー屋さんがたくさんあるのに、私はいつも同じお店から豆を取り寄せています。
理由は、味だけではありません。
箱を開けると、毎回手描きの小さなイラストと、短いメッセージが添えられています。
ほんの数分あれば描けるような、ささやかなものです。
でも、その数分が嬉しい。
「今月もありがとうございます。」
そんな言葉があるだけで、遠くのお店との距離が少し縮まる気がします。
コーヒーを飲む前から、もう心が温かくなっているのです。
私はそのたびに感じます。
「この一杯の向こうに、人がいる。」
豆だけが届いているのではなく、そのお店の人の時間や気持ちまで一緒に届いているような感覚。
効率だけを考えれば、そんな手間はかけなくてもいいのかもしれません。
でも、その「少しの手間」が、そのお店らしさになり、「またここで買いたい」という理由になっています。
建築でも同じことが言えるかもしれません。
図面や性能、価格はもちろん大切です。
でも、本当に心に残る家づくりは、それだけではありません。
打ち合わせで何気なく話した好きな景色を覚えていてくれたこと。
現場で見つけた夕方の光を写真に残してくれたこと。
「こうしたら、もっと暮らしが心地よくなりそうですね。」
そんな何気ない一言や、小さな気遣い。
図面には描かれないけれど、確かに家の中に残っていくものがあります。
私は「建物」を設計しているつもりはありません。
その家で過ごす時間や、そこに流れる空気まで設計したいと思っています。
だから、派手な演出はいりません。
豪華なプレゼントも必要ありません。
ただ、「この人は自分たちのことを本当に考えてくれた。」
そう感じてもらえる、小さなひと手間を大切にしたい。
朝のコーヒーを飲むたびに思います。
人は、モノだけを選んでいるわけではない。
その向こうにいる「人」を選んでいるのだと。
そして私も、そんなふうに選ばれる設計事務所でありたいと思っています。

