利便性と豊かさ

家づくりの相談を受けていると、
「とにかく便利な家にしたい」
というご希望をいただくことがあります。 もちろん、便利さはとても大切です。
家事がラクになったり、時間を生む工夫はとても価値があります。 しかし、実際の暮らしを見ていると、
便利すぎる家ほど、逆に疲れやすい
というケースも少なくありません。 その理由は、便利さによって
人が本来持っている生活のペースが奪われてしまうから。 すべて自動化すると「感覚のリセット」がなくなります。 ボタンひとつで完結する家事は確かに助かりますが
少し身体を動かしたり、手を添えたりする動作には、
実は気持ちを切り替える働きがあるんです。 便利だからしなくていいのではなく、
「ちょっと触れることで落ち着く」ということも。 また、動線の効率化も同様に息抜きを奪うことがあります。 「最短距離の動線」は一見理想ですが、
人はずっと効率よく動き続けられません。 ほんの数歩歩く、
少し立ち止まる、
窓の外を一瞬見る——
そういう小さな行為に、心を整える効果があります。 効率だけで組んだ家は、
知らないうちに生活の“リズム”を失わせますし あまりに完璧な便利さは、逆に人を緊張させてしまいます。 「この家は便利なはず」という思い込みは、
逆に“うまく使いこなさなければ”というプレッシャーを生むことも。 家は、
うまく使えなくても許してくれる場所
であるべきだと思います。 では、心を疲れさせない家とは、どういう住まいでしょう? それは、便利さと余白がほどよく混ざっている家。 ・家事がラクになる部分は便利に
・気持ちが整う場所には“ゆるさ”を
・触れたくなる素材を身近に
・少しの不便をあえて残す そんなバランスがあると、
家は“帰るだけで落ち着く場所”になります。 便利を追うほど、疲れやすくなる。
だからこそ家づくりでは、
「便利 × やさしさ × 余白」のバランスを大切にしたいと考えています。

MINUS DESIGN BLOG

心に残る空間づくり。
自分たちらしく暮らすために、
どんな住まいがあってほしいか。
そんな問いを一緒に考える、
マイナスデザインのブログです。