見えるもの、見えないもの

家の中から、庭を眺める。
それだけのことなのに、ふと心が落ち着いたりするのは、
そこに「自分だけの視点」があるからかもしれません。 たとえば、座ったときに見える窓の先の風景。
寝転がって見える空。
小さな子どもが感じる世界の高さ。 そして人間、時には、
「何も見たくない」という気持ちになる日もある。 誰かの言葉に傷ついた日、
うまくいかない自分に嫌気がさした日。
そんな日は、視線の先に何も置かず、
そっと目を閉じたくなる。 「何も目に入ってこない」という設計。
それもまた、自分と向き合うために
とても大切な視点のデザインだと思うのです。
私はずっと、目に見えないものを大切にしてきました。

安心とか、優しさとか、気配とか、
そんな、かたちのないものが、
人の心をじんわりと温めてくれると信じているから。 住まいとは、その“見えない何か”を支える「見える存在」だと思うのです。 木の香りや、やわらかな光、風の通る抜け。
それらが静かに後押ししてくれることで、
私たちはようやく、安心したり、笑顔になれたりする。 「見えるもの」は、単なる飾りじゃなくて、
「見えないもの」を引き立て、そっと抱きしめるためにある。
だから私は、これからも
視点の先にある「空気」を設計していきたい。
誰かの心が、ふっと軽くなるような、
そんな居場所をつくっていきたいと思っています。 見えないものにこそ、人は救われる。
だからこそ、マイナスデザインは“見える”を、丁寧に設計したい。